パンの記憶

 特に理由はないが、トースターを買って朝はパン食にすることにした。ジャムを何種類かと、ピーナッツバターを大量に買い込んだ。朝起きて、トースターから食パンが飛び出すのを待つ。トースターというものをいままで自家で持ったことがなかったので、あまりにも早くパンが出てきて、すこし狼狽た。トースターといえば、いまでも記憶があったのは、母方の親戚の家に泊まりに行ったときのことで、親戚の家族とぼくと母とで台所のテーブルに並び、レンジ台の下の銀色をしたトースターからパンが飛び出してくるのをじっと長いこと見ていた記憶があったのだ。それがパソコンを起動しただけで、音を立てて出てきて、おどろいた。宇宙船のようだといまはもう思わなかった。
 ナイフでジャムを広げ、ナイフを置いたときに鳴る皿の乾いた音が、どこか新鮮で心地よいのだった。