近況、現況。

某日、その前日に小説を書き終えたぼくは本屋に行ってから適当な本を物色して、デパートの地下食品売り場で切らしていたオリーブオイルとトーストに塗るバターと幾つかのチーズと台所洗剤を買った。駐車場を出て駅前の混雑を抜けて市街地を走り出すと、突然…

熟れた桃

(『春の桜』の続き) 先日ファミリーレストランで、上田さんに会ったとき、ぼくが無視をしたのは、上田さんのことが特に嫌いだったからではありません。そのときは特に、誰とも話したくなかったのです。誰の顔も見たくもない気分でした。誰とも話したくはな…

春の桜

さきほど、特に用があったわけではありませんが、河川敷に行ってきました。河川敷というのは、どこの土地もよく似ています。理由はよくわかりません。それほど大きくはないグランドが幾つか並び、心許ない木製のベンチがあり、野球のスコアボードの角がめく…

Chateau Griffe de Cap D'or 2001

ああ、伊東さんが今日はお休みだから、なんにも言えないのだと思った。なんにも言えないの前に、あまり話すこともなかったので、話したくはなかったのだけれど、それでも美容師というのはよく喋る。ハサミを仕切りに動かし、鏡越しに、ちらっ、とこちらを見…

朝御飯

飽きないで、ずっとおなじものばかりを欲しがるから、中毒なんだよ。つい先日Kさんがそう言って、煙草の自販売機の売り切れの文字を見て、毒づいていたのだけれど、今朝Mくんの家で、朝食をいただいているときに、ふと、それを思い出した。右手に持っていた…

入浴時の出来事

風呂に入って、湯船に沈んだ足先をじっと見つめていると、もっと近くで見てみたいような気がした。足首を掴んでから、顔の前に近づけてみた。随分と変な形だと思い、そのなかでも、特に一番大きな親指が変だと思った。横から見ると、茹でた空豆にも似ている…

華麗に感傷的な平日 

ねえ、あのさ、近くにイタリア料理できたんだけど。というので、こちらから誘った。携帯電話の向こうで、長い沈黙があった。明け方近くで、新聞配達の音が聴こえて、雨が降っていた。 翌日、本屋で待ち合わせをして、店に向かった。ぼくの方がより待たせたが…

ファッションとパッション

夢中になって、おしゃれをすることはとても恥ずかしい。ぼくがそう思っていたのは中学二年生の頃で、そのころの休日といえば、学校近くのバス停で待ち合わせをして、それから誰それが履いてきた靴を褒めたり、誰それが被ってきた野球チームのロゴが入ってい…

正月葬送

なんか起きてからなにもやる気にならないし、これこそまさに正月なのだと納得をしつつ、昼間から剛毅にお酒でも飲もうと思ったらストックがないのであった。仕事仲間に先日振る舞ったはいいが、酔っぱらって、ありとあらゆるアルコールを出してしまったらし…

あたりとはずれ

生牡蠣にあたって家で養生すること三日。漸く調子が出てきて、四日ぶりに外出する。家の中とは比べものにならないくらい外は寒くて、毛糸の帽子を被って買い物に出掛ける。よくいちどあたると同種や同一の食べのを見ただけでも、どこか具合が悪くなるなどと…

手紙を入れたガラス瓶

メルヴィルのバートゥルビーを読んだ。トラウマチックな読書体験だった。どうやらメルヴィルと肌が合うのか? と自分で考えたけれども、その肌が合うという言葉は、あまりにも卑近で、一方的に親密すぎて、なにかを損ね、おぼろげに見え始めたよくわからない…

読み返してみて

汚い話しで恐縮なのだけれど、昼間吐いたあとに書いた日記を読み返してみて、しまりがないというか、だらだらとしていて、そのときの二日酔いの気分がそのまま文章になったみたいな日記をいま見て、呆れると共に、危険な言い方だと十分承知のうえなのだけれ…

昨夜のゴミと今朝のゴミ

昨晩唐突に部屋の中で目に付く余分なものが気に掛かりはじめた。空のワインボトルや古い携帯電話。それからその充電器や、今更やることのないプレイステーション。壊れたビデオデッキがクローゼットのなかにしまってあるのも思い出し、本棚の隅に栞が無造作…

パンの記憶

特に理由はないが、トースターを買って朝はパン食にすることにした。ジャムを何種類かと、ピーナッツバターを大量に買い込んだ。朝起きて、トースターから食パンが飛び出すのを待つ。トースターというものをいままで自家で持ったことがなかったので、あまり…

サルトルな朝(その1)/『部屋』

朝起きると三時間しか寝ていないのに、どういったわけか、すがすがしい目覚めで、わけあって読むことにしていたのに読んでいなかった『水入らず』という短編集の中の、壁を思い出して探した。サルトルの短編のなかでもなかなかに評判のいい『壁』という行き…

アンインストール

インストールを買いに本屋へ行った。ぼくがよく行く本屋は三軒ある。いずれも岩波文庫の有無や講談社文芸文庫の数など、品揃えはおおきく変わらない。けれども、本を買い求めるときには大抵その三軒を回る。順番はいつでも変わらない。一軒目に行くのが、家…

牛タン豚タン

例のひと(10.24不覚)からまた連絡が来て、「日記に強がったこと書くねえ」といわれた。きれいごと過ぎるとか、あざといとか、つまらなさの定義が曖昧だとか、おまえの書いてる物がいちばんつまらん、とかいわれるのかと思ったら、強がったこと? どこの部…

小市民

「もし、よろしかったら、寄付をお願いしているのですが」と、いわれたものだから、ぼくはよろしくないので、「それは、嫌です」と断った。そしたら、その女性は明らかに機嫌を悪くしたようで、「みなさん、払ってくださってますから、次回の更新時にはお願…