そこにある物語が切ないのではなく、博士という記号が泣けるのである/小川洋子『博士の愛した数式』

博士の愛した数式 (新潮文庫)作者: 小川洋子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/11/26メディア: 文庫購入: 44人 クリック: 1,371回この商品を含むブログ (1054件) を見る 勘違いされやすいタイトルなので、先に触れておくと、博士は博士という記号であり、…

近況、現況。

某日、その前日に小説を書き終えたぼくは本屋に行ってから適当な本を物色して、デパートの地下食品売り場で切らしていたオリーブオイルとトーストに塗るバターと幾つかのチーズと台所洗剤を買った。駐車場を出て駅前の混雑を抜けて市街地を走り出すと、突然…

結婚と恋愛は既に手段でしかない/『情愛』

そんなことしている場合ではないのに、ついつい薦められたので観てしまった。無料でPCで観れるとはいえ、つまらなかったら途中で辞めようとも思っていたが、最後まで観て関心してしまった。韓国のことでもあるし、例のブームの際にほとんどドラマや映画も観…

生きてます

なんだかなにもかもが嫌で嫌で仕方がなくて、なにもかもに腹が立ったり、なにもかもに幻滅をおぼえたり、なにをやっても妙に退屈で、なにをしていてもストレスを感じるので、仕方が無く、本当はそのことも嫌で嫌で仕方がなくて、恥ずかしくて仕様がないのだ…

書き手の文学

個性などと言うフレームワークはそろそろ潰してしまう問題は、そうした「面白みの無い存在」としての、つまり理念として演じられる自己や自我というのに則って物を考えたり書いたりするのは、ひどく簡単だということだ。ある書式を覚えこみ、それに適合する…

小説の精度と作者の狡さ/中上紀『ニナンサン』藤野千夜『ネバーランド』

またまた先月号の話しで恐縮なのだけれど(いつも読み終わるのが遅いのです)、新潮4月号を読み終わった。チェーホフ未邦訳短編短編が載るということで楽しみにしていたのだけれど、所謂チェホンテ時代の売文小説ばかりで少々がっかりした。それはともかく、…

熟れた桃

(『春の桜』の続き) 先日ファミリーレストランで、上田さんに会ったとき、ぼくが無視をしたのは、上田さんのことが特に嫌いだったからではありません。そのときは特に、誰とも話したくなかったのです。誰の顔も見たくもない気分でした。誰とも話したくはな…

春の桜

さきほど、特に用があったわけではありませんが、河川敷に行ってきました。河川敷というのは、どこの土地もよく似ています。理由はよくわかりません。それほど大きくはないグランドが幾つか並び、心許ない木製のベンチがあり、野球のスコアボードの角がめく…

Chateau Griffe de Cap D'or 2001

ああ、伊東さんが今日はお休みだから、なんにも言えないのだと思った。なんにも言えないの前に、あまり話すこともなかったので、話したくはなかったのだけれど、それでも美容師というのはよく喋る。ハサミを仕切りに動かし、鏡越しに、ちらっ、とこちらを見…

例の長いの、あれ、放っておいた訳ではないのです。

よし、書いてみるかな。と軽い気持ちで書き始めたのはいいのですが、ちょっと真面目に書いてみるか、いやいや、きちんと相応の努力と姿勢で書いてみましょう、と途中から思って、それほどのものでもないのに、続きを読みたいと言ってくださったのもあって、…

追記

二、三日経過してから読み直してみて、絶望的な気分になった。なにをどう、なおしていいのやら。文章の精度が途中から完全に落ちていて、確かにちょっと難儀して、ぐしゃって、書き散らしてしまったのだけれど、これは酷い。目も当てられん。一端消します。…

朝御飯

飽きないで、ずっとおなじものばかりを欲しがるから、中毒なんだよ。つい先日Kさんがそう言って、煙草の自販売機の売り切れの文字を見て、毒づいていたのだけれど、今朝Mくんの家で、朝食をいただいているときに、ふと、それを思い出した。右手に持っていた…

書くことと文学、純文学はどこに存在するのか。

ブログを書き始めてぼくはブログの強制力というものを知った。なにかを書かないと後ろめたいような、申し訳ないような気がしてくるのだ。書く。という行為は、おかしなもので、本当は主張したいことも、なにかを強烈に伝達したいわけでもないのに、誰にでも…

絲山秋子の滑らかさ/『沖で待つ』

沖で待つ作者: 絲山秋子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/02/23メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 74回この商品を含むブログ (251件) を見るある程度の物語の流れと、構造まで言及しないと、一側面でしかこの小説について書けないので、以下からネ…

文体について

難しい問題ですが、敢えて触れます。 文体を模倣すると、展開までトレースしてしまう。これはかなり重要なことではないか。こと、というと核心が見えてこないから、ここでは敢えて問題といってもいい。文章を書く際に文体を模倣すると、展開までトレースして…

バトントン

id:ryotoさんからバトンをいただきました。1.好きな音楽ジャンルは?(複数でも○) クラシックとジャズを少々です。2.そのジャンルで好きなアーティストは?(3個くらい) 特に思い入れがあるのは、ブラームスです。(というか文学好きのひとって、ブラーム…

入浴時の出来事

風呂に入って、湯船に沈んだ足先をじっと見つめていると、もっと近くで見てみたいような気がした。足首を掴んでから、顔の前に近づけてみた。随分と変な形だと思い、そのなかでも、特に一番大きな親指が変だと思った。横から見ると、茹でた空豆にも似ている…

自意識過剰と演技/『セックスと嘘とビデオテープ』

セックスと嘘とビデオテープ [DVD]出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント発売日: 2006/02/01メディア: DVD クリック: 6回この商品を含むブログ (12件) を見る 扱ったのは無意識で、それが矛盾に顕われる。 「最近、夫に触られるのがいや…

──追記──

いや、すぐに気が付いたけれど『宗教家を描いた小説であるか、宗教家が描いた小説であるかの違い』というのは、そんなはっきりとしたものではなく、極論してしまうと、結局は個人の嗜好の問題になってしまいそうだけれど、敢えて踏みとどまって考え続けて、…

綿矢りさから感じる恥ずかしさ/『You can keep it.』

インストールをようやく買って読めた。といってもタイトルの方はまだで、おまけのように付いている『You can keep it.』から読んだ。インストールのはじめの二、三ページだけを読んだのだけれど、よくこれで新人賞の予選を通過したなと思った(作品とは別の…

客観的に駄文を救う(了)  

愛は駄文を救うか

愛というのは文章に対する愛ではなく、どうしようもない駄文を書いてしまった自分を擁護したい、自己愛で、駄文というのは、昨日の日記のような、どうしようもない文章だ。もう、ほんとうに、どうしようもなくて、情けない。感傷というものには、気をつけな…

華麗に感傷的な平日 

ねえ、あのさ、近くにイタリア料理できたんだけど。というので、こちらから誘った。携帯電話の向こうで、長い沈黙があった。明け方近くで、新聞配達の音が聴こえて、雨が降っていた。 翌日、本屋で待ち合わせをして、店に向かった。ぼくの方がより待たせたが…

ファッションとパッション

夢中になって、おしゃれをすることはとても恥ずかしい。ぼくがそう思っていたのは中学二年生の頃で、そのころの休日といえば、学校近くのバス停で待ち合わせをして、それから誰それが履いてきた靴を褒めたり、誰それが被ってきた野球チームのロゴが入ってい…

中村文則とコンフリクト/『世界の果て』文學界1月号より

先月号の話しで恐縮なのだけれど、文學界1月号に中村文則の小説が載っていた。芥川賞受賞第一作目ということになるのだけれど、あまりの出来に唖然とした。未知なるものに出会って嬉々とするような唖然ではなく、どこか口を開けて呆然としながら疑義とした視…

正月葬送

なんか起きてからなにもやる気にならないし、これこそまさに正月なのだと納得をしつつ、昼間から剛毅にお酒でも飲もうと思ったらストックがないのであった。仕事仲間に先日振る舞ったはいいが、酔っぱらって、ありとあらゆるアルコールを出してしまったらし…

なんでだろう/訂正のお詫び

モーツァルトの書簡をもういちど読み直したら、これはどうみてもすべてが意図的で、どうしてぼくは変に読み間違えていたのだろうと思い、すごい憂鬱で怖くなった。以上の異常、頭の故障を踏まえて、大幅に改竄しました。しかし、それにしても書いていること…

残り続ける印象/『モーツァルトの手紙』

書簡の探しものをしていたら、なんとモーツァルトの手紙がでてきて、読むとおもしろくて、まるで小説のようだった。はじめて読んだのだけれど、モーツァルトはなんておもしろい文章を書くのだろう。自意識過剰なところを諧謔的に書いているのがこれまたうま…

平野啓一郎の視線のまずさ/『慈善』すばる1月号より

映画を見終わってブログを書いてまだ時間があったので、ちょっと『すばる』なんて読んでみた。はじめに高瀬ちひろの受賞1作目が載っていたのだが、最後の方まで読んで結局やめてしまった。たぶんこのひと川上弘美を意識しているのだろうけれど、そこに流れる…

妄想の現場を撮ったゴダール/『気狂いピエロ』

気狂いピエロ [DVD]出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ発売日: 2005/07/16メディア: DVD クリック: 55回この商品を含むブログ (78件) を見る 新年なのだから、もう少し然るべき時期にあった映画というものを観ればいいのになぜだか『気狂いピエロ』…